みなさん、こんにちは。
さっそく本紹介やっていきたいと思います。
ということで、今回は、國分功一郎『来るべき民主主義』の感想を述べたいと思います。
ちゃんとした「あらすじ」は、Amazonの商品説明などでチェックしてください。下にリンク貼っておきます。
概略
一応、私の方でも概略をざっくりと述べておきます。
この本は、哲学者の國分功一郎さんが、小平市の住民投票に参加した体験をベースに、近代政治哲学と民主主義に欠けているものを考察するものです。
國分さんを含む地域住民の方々は、小平市都道328号線の計画の修正を求めて住民投票を行いました。というのも、行政が同計画へ住民の意見を適切に配慮しなかったからです。住民投票に参加した過程と結果の中で、國分さんは「住民が行政の決定に携われない」ことを問題視するようになります。
本書の中盤では、そこで浮かび上がった行政と民主主義の関係性について、政治哲学の観点から考察がなされています。そして、終盤では、新しい民主主義の在り方についての提言がなされています。
ちなみにこの本を読んだ理由としては、國分さんの著作の中で前から気になっていたことや、國分さんと斎藤幸平さんのラジオの中で言及されていたことで興味を持ったからです。
なお、斎藤幸平さんといえば、『人新生の「資本論」』がベストセラーになってますね。
個人的な意見
私個人の意見としては、「行政」という存在、提案型住民投票、民主主義の問題点等の理解を深めることができたので本書には満足しています。
行政の決定に住民が参加できないという話は抽象的には理解していました。ですが、実際に小平市の住民投票を具体例としてみることで、行政が議会と住民から離れた存在と化していることに改めて気付かされました。
行政法学の観点から言えば、そもそも行政には一定の裁量が与えられています。議会が決定できるのは一般的なルールですから、個別具体的な運用は行政の裁量に委ねられています。
今回のケースで言えば、道路計画がどのような規模で、どのような形で実施されるか、といったことが行政の裁量に委ねられていたと思われます。
もっとも、行政の裁量といえども、無制限に認められるわけではありません。
特に道路建設の場合、立ち退きや環境の破壊を生じさせますので、近隣の住民のニーズに合わせて対応することが望ましいです。行政の一方的な計画の推進は、行政への不信の高まりや円滑な計画の実施に支障をきたす恐れがあります。できる限り、住民の意見を取り入れることは重要です。
気になる点
本書で、気になる点と言えば、住民投票に関する提言でしょうか。本書では、住民投票制度の法的な確立や、「実施必至型」の住民投票制度を設けることが提言されています。
確かに住民投票は良いものであると思いますが、メリットばかりが強調されていて、デメリットにはほぼ触れられていません(分かりやすさと紙面の都合との関係はあるとは思います…)。
常設型の住民投票(実施必至型を含む)のデメリットとはなんでしょうか。
それは、頻繁に住民投票が請求される恐れがあること、仮に頻繁に請求されればその都度に大きな財政負担を負うということです。住民投票の実施は無料ではありません。当然、投票のためには、相応の経費負担が同自治体に求められます。
住民(市民団体)が頻繁に住民投票を行えば、議会政治も滞りかねません。もちろん、住民の行政参加は重要ですので、それ自体は否定されるべきではありません。
しかし、政策課題には重要度があるはずですから、全ての政策課題について常設型住民投票にかけられるようにすることは非効率性を生み出しかねません。
そうすると、当たり前の帰結ですが、頻繁に実施を防ぐ常設型住民投票の開発が必要とされるのではないでしょうか。個別設置型に回帰するということは選択肢の一つではありますが、國分さんの問題提起からすれば、望ましいものではないはずです。
参考
ちなみに、本書は政治哲学の観点から検討されていましたが、住民投票は法学的には地方自治法からの考察がなされます。特に、住民投票が「個別設置型」であるか、「常設型」であるかは地方自治法で検討されている課題です。
地方自治法の概説書は少ないのですが、メジャーなものといえば、宇賀克也『地方自治法概説(第9版)』が参考になると思います。割と値が張るので、大学なり地域なりの図書館で読むことをお薦めします。
余談
完全に余談ですが、國分先生といえば、新潮文庫から出ている『暇と退屈の倫理学 増補版』が好評ですね。私自身は単行本で読みました。
この本もいずれご紹介できればと思います。
ではまた今度。